2017年7月10日

【山種美術館「特別展 RYUSHI 川端龍子 -超ド級の日本画-」(東京 広尾)】

7月、夏到来です。暑さに涼を求める季節がやってきました。
今回は、ド級の迫力がありつつも、どこか涼しく、悲しさを背負う、ヒグラシのような展覧会をご紹介したいと思います。


ご紹介する展覧会は、
特別展 RYUSHI 没後50年記念 川端龍子 -超ド級の日本画-」です。
期間:2017年6月24日(土)~8月20日(日)


前回の記事に引き続き、近代日本画の宝庫「山種美術館東京 広尾)」で開催されています。




さて、作品をご紹介する前に、日本画家「川端龍子(かわばたりゅうし)」に触れるとしましょう。


ご紹介頂いたのは、明治学院大学教授の山下裕二先生と山種美術館の職員さん。今回も内覧会での取材で、記事の各写真は許可を頂いて撮っています。



画像の通り、川端龍子は男性です。タツコではありません。名前の由来は「龍の落とし子」で、父親との確執から自らを「龍の子=龍子」としたそうです。

絵を描くことが好きだったという幼いころの作品がこちら。


う、うまい。芦雪(ろせつ)が手本だと私も思いますが、にしても見事に描かれています。

ちなみに、絵の右にある赤い「上」は、学校の先生が書いたものです。学校教育の中で生まれた作品で、先生が高く評価しています。褒められたことでまた伸びたのでしょうね。

20代。生活の糧として新聞や雑誌の挿絵画家を務め、人気画家となります。ここで生まれたジャーナリズム性を感じる作品がこちら。

川端龍子「夢」 昭和26年 66歳作 大田区立龍子記念館蔵 

棺桶にミイラ、舞う蝶・蛾。奥州藤原氏の死体の学術調査が行われた際、現地取材を行って完成させた作品です。幻想的なのですが、現地で何が起こり 何が行われたのかを物語っています。

40代、そしてそれ以降。戦前・戦中・戦後を通し「会場芸術」と称されるほど大スケールな作品を多数生み出しました。今回の展覧会では、その超ド級な作品が何点も展示されています。


さて、特に気になった作品を紹介しましょう。

川端龍子「鳴門」 昭和4年 44歳作 山種美術館蔵

代表作の1点です。鮮やかな青から音が響いてきます。枠を超えるスケール感が見ものです。

川端龍子「真珠」 昭和6年 46歳作 山種美術館蔵

「真珠」です。仮に海女さんならば仕事風景となりますが、どう見ても「オトコ目線」です。岩陰から覗き見る興奮まで感じます。想像(妄想?)しすぎですかね?
ちなみにこの「真珠」は、当展覧会の前期期間中(2017年6月24日~7月23日)どなたでも撮影可能です。後期(7月25日~8月20日)は「八ツ橋」が撮影可能となります。
【展示室内で写真撮影いただける作品について(山種美術館)】

川端龍子「請雨曼荼羅」 昭和4年 44歳作 大田区立龍子記念館蔵

「請雨曼荼羅(せいうまんだら)」と読みます。神聖不可侵、神がかった作品で、かなり圧倒されました。説明書きによれば「両界曼荼羅(りょうかいまんだら)」からヒントを得たとありますが、正直、そんな印象は受けません。むしろ「不動明王」に見えます。まぁ、広く仏教世界を語るのであれば一緒なのでしょう。皆さんの感想を伺いたいものです。

川端龍子「春草図雛屏風(はるくさずひなびょうぶ)」 昭和時代

川端龍子「草の実」 昭和6年 46歳作 大田区立龍子記念館蔵

さて、この展覧会中に8月15日「終戦記念日」を迎えます。日本の夏を語るに避けて通れません。国に歴史があるように、大東亜戦争を経た画家にも歴史があります。

川端龍子「香炉峰」 昭和14年 54歳作 大田区立龍子記念館蔵

中国大陸の名峰「香炉峰(コウロホウ)」。その姿を九六式艦上戦闘機と共に描いた作品です。軍の偵察機に同乗した体験を元にしています。操縦席に映る人影は画家本人です。

絵の実寸も大きいし、面の大半を戦闘機が占めているのですが、何故か私には戦闘機が大きくは見えませんでした。代わりに見えた大きなものとは、香炉峰を抱える中国大陸と、大衆の持つ戦局です。

俯瞰した構図の奥にある「広大な大地」と「”優位な”戦局」。たぶんそれは飛行機に乗る仮想現実(VR)を作品が与えてくれているからでしょう。構図と脳の妙ですね。

川端龍子「千里虎(せんりこ)」 昭和12年 52歳作 大田区立龍子記念館蔵

戦争は多くの人の人生を狂わせます。画家も同じで、川端龍子にも不幸が訪れました。

「我が子の死」。出征した息子の死です。

龍子はこの作品を、千人針に同じく「虎は千里行って千里帰る」の故事に基づき贈りました。しかしついに息子は千里の先を逝ってしまいました。

描かれた時は勇ましい姿だったのかもしれません。が、今眺めると淋しげです。重なる男子の姿に龍子の涙を感じました。

川端龍子「爆弾散華(さんげ)」 昭和20年 60歳作 大田区立龍子記念館蔵

終戦2日前の昭和20年8月13日。龍子の自宅に米軍の爆弾が落ちました。母屋は壊れ、庭には大きな穴が空いたといいます。この作品はその時の菜園を描いたものです。

想像するに、まず息子の死が映るのですが、それは違うのではないかと思います。子供の死を絵に映す親はなかなかいないと思うからです。それは菜園に代えてもできないでしょう。普通は、元気な時の姿を描くと思います。

で、私はこれは仏教画だと感じました。人の死の間接的な描写ではなく、諸行無常のような仏教思想を投影しているのだと。まぁこれも、広く解釈すれば人の死を含むわけですが。


戦争画と呼ばれる分野は近年注目されています。私が当展覧会で感じた「ヒグラシ感」。この夏、是非に当展覧会で感じてみてください。


さて、鑑賞後の楽しみと言えば、美術館1F「Cafe椿」。恒例の展覧会スイーツが待っています。





それぞれ、青山の老舗菓匠「菊屋」製の、展示作品をイメージした特別オーダーの和菓子です。毎度ながら素敵ですね。眺めていると、いつかは自身が催す茶席に自身の作品をイメージした菓子を出してみたいなぁと思いました。


ここで、内覧会での出来事を少々。

川端龍子「龍巻」と山下裕二先生。

「香炉峰」を背景に、会田誠さんと山下裕二先生。

この内覧会に訪れる前、偶然に読んでいた本が「戦争画とニッポン」椹木野衣×会田誠(講談社)だったので、戦争画を前にして会田誠さんにお会いできたことに感激しました。

以上。


【特別展 没後50年記念 川端龍子 -超ド級の日本画-】
【会期・開館時間】
・2017年6月24日(土)~8月20日(日)
 会期中、一部展示替えあり (前期: 6/24~7/23、後期: 7/25-8/20)
・10:00~17:00(入館は16:30まで)
【休館日】
・月曜日(但し、7/17(月)は開館、7/18(火)は休館)
【入館料】
・一般1200円(1000円)・大高生900円(800円)・中学生以下無料


【山種美術館(やまたねびじゅつかん)】
〒150-0012
・東京都渋谷区広尾3-12-36 【map】
・TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
【開館時間】
・10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
※特別展の開館時間は変更になることもあります
【休館日】
・毎週月曜日(祝日は開館、翌日火曜日は休館)
・展示替え期間
・年末年始
【観覧料(企画展)】
・1000円(大人)
・800円(大学生・高校生)
【観覧料(特別展)】
※展覧会により異なります
【割引券】
ホームページ割引券
【アクセス】
・JR恵比寿駅西口より徒歩10分 【アクセスmap】
・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分

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